風立ちぬ 感想

現在公開中の 「風立ちぬ」 の感想です。 まだ観に行ってない方は スルー 願います。


誰が風を見たでしょう
        
               僕も貴女も見やしない

                         けれど木の葉を顫わせて

                                           風は通り抜けて行く




絶賛と酷評が同数という コラム を読んだが、これはどの宮崎作品 ( 『千と千尋』 以降 ) にも言えた事だと思う。 前にも書いた事だが、宮崎氏は監督ではあるが 職人だ。 映像は完璧に近い仕上がりだが、話に アラ が出るのは ストーリー の プロ ではないからだ。

しかし言いたい事ははっきり出た。 二郎の夢の中に出た カプローニ の セリフ で 「飛行機は美しい夢だ、我々はそれを形にして残す」 だったかな。 すみません、前半に出た言葉ですが うろ覚えです。 この部分、もう一度 キチン と観てきます ( 涙

カプローニ の セリフ、「これ、そのまま アニメ 制作に言えるよなぁ」 と ズッシリ と頭に圧し掛かります。

この作品は随所に 「夢」 が キーワード として出る。 ゼロ戦設計までの話だが、戦争は影の存在にし設計までを延々と流す。 ただ、戦争から目を背けるのではなく 「技術屋」 から見た世界を表現すると、こうなのかなという感じがする。
自分の憧れを実現する 「夢」 。 それに向かって邁進する姿。 同じ技術屋 ( 宮崎氏 ) から見た二郎とは、こういう姿なのだろうと感じた。

サバ の骨を見て 「美しい」 とつぶやく。 友人の造った爆撃機を見て 「美しいな」 と言う。 使用される目的は大量破壊兵器だが、苦労の末組み上げられた爆撃機を見て、計算されつくした曲線の 「美」 に感嘆の声をあげる。

「紅の豚」 にも出たが、ピッコロ 社に運ばれた ポルコ の機体を見た フィオ が「おじいちゃん、きれいね」 とつぶやく。 これも元は戦闘機。 戦争の道具だが、技術屋には 「作品」 。 無論、技術屋にも葛藤はあると思う。 以前、自分の ブログ で紹介した戦時中の アニメーター もそういう人間の一人だ。 

技術屋の全員がそうではないが、戦争の中に置かれた技術屋の姿の一つではないか、とも思う。

宮崎氏の自身に対する葛藤。 生み出すものは 戦争兵器だが、そこに至るまでの技術革新。 自分の持てる限りの アイディア と閃き。 形となって現われる感動。 しかし、ようようの想いで生み出された物の末路。 戦争は否定だが、戦闘機 ( 飛行機 ) は容認。 この矛盾。


「今造っているのは爆撃機だが、戦争が終われば コイツ は旅客機になる」

夢の中の カプローニ の セリフ。 ハナ から兵器を造った訳ではなく、本来は民間機として設計された機体。 「兵器を造る」という名目が無ければ造りたい物を造らせてくれなかった時代。 その矛盾を埋めるべく 「夢」 と 「現実」 が錯綜していく。

この 「夢」 を逃げ道と取るか、答えと取るかで意見が分かれると思う。 自分としては、二郎の諦めない精神という表現の他に、宮崎氏の 「物造り師の姿」 と捕えた。


戦争を テーマ にした ロボットアニメ 他もろもろ、創り手は戦争を肯定していない。 包丁職人だって、使いやすい切れ味の良い物を造ったはずなのに、使う側が人に向ければ凶器になる。 これも矛盾。


しかしこの時代の人間の ベンチャー 魂と言うか バイタリティー というか、逞しかったんだな。 こういう優秀な技術を持つ者には惜しみなく投資されていた時代。 同じ様に震災があり、デフレ の波がある今の時代には、こういう気質がない。 魂を置いてきたのは、いつからだろうな。

愛国心とか、そういうものではなく 自分のやりたい事、何ができるか何を望むか。 情熱を持って打ち込める事。
自分の夢を追う魂。 夢を持つ若者はいても、魂を持つ者は少ない。 



仕事にしても恋愛にしても、ビビット な時代。 パンフ にも書かれていたが、緑の多かった昔の日本 ( 都会 ) 。
それを鮮やかに精密に描き出した職人技の作品でもある。 冒頭から 『 映画を観る 』 という感覚は消え失せ、一人の 『 傍観者 』 としてその場にいる感じがした。 非常に空気の密度の濃い世界の映像。 宮崎氏の職人としての意地と魂のせめぎ合いに、観客が捕りこまれる作品。 それが 「風立ちぬ」 だと思う。



技術的な所とか、まだ語りたいものがあるけど、それはまた後日。









この記事へのコメント

う~さん
2013年08月14日 11:10
ヨウさん、お久しぶりです。
夫が観てきて絶賛してました。彼もある意味技術者。家には沢山の戦闘機や戦艦のプラモ。いかにその機体が美しいかを、熱く語る人です。長男もその影響を受け、日本がかつて作り出した「戦闘機」がいかに素晴らしい作品であるかを延々語り合っています。優れた道具は美しい。言い古された言葉だけれど、私自身ことある事に実感します。・・・そうかぁ、そんな感じなんだ。宮崎さんだものなぁ。観に行きたいデス!
2013年08月14日 21:57
う~さん、おひさしぶりです。
プラモ等の工作好きにはたまらない作品だと思います。飛行艇の翼断面の雰囲気とか、格納型車輪の開発のくだりはハート鷲づかみでしょうね。宮崎氏もこのあたり好きな方ですから、シーンの力の入れようはハンパなかったです。
ただ、完全に男目線の話なので、女性には二郎が冷酷に映るようです。家庭より仕事人間に見えるみたいで、批判的感想が多いですね。よく観てもらえば誤解だとわかるんですが・・・って、言い訳がましいですかね(笑
自分はこの作品、技術屋の一つの姿と捕えました。若干かけ足の物語ですが、時代の空気感がすばらしいので一見の価値有りですよ。
う~さん
2013年08月15日 19:20
 家庭よりも仕事人間に見える、か。今は、家庭的な男性も増えているから、余計そうなのかも。でも、私の父も昭和ぎりぎり一桁世代の人で、やっぱり家庭より仕事の人だったから、そんなもんかという諦めもあったりします(笑
 家を守るの、結構大変ですが、夢中になってる男の人って、やっぱり好きです。いやぁ、いいことばかりじゃないのは確かなんですが。実際に自分の旦那がそうだと辛いだろうけれど、嫌いになれないな。宮崎さんの、男目線な話は好きです。ヘタに媚びないから。自分の美学(ロマン)に浸ってる男の人は、いや、男の人だけじゃなくて、そういう人はやっぱりおもしろいと思います。因みに、夫は目をウルウルして語っていました(爆
 因みに「風立ちぬ」は、私が初めて文学作品を自分から読んでみたいと思った作品でした。殆ど覚えてないんですが、今でもこぶしの花が好きなのはその影響です。
 うん、映画館へ観に行くぞ!
2013年08月15日 21:50
昔はだいたいそうだったんですよね。今は優しい時代になったのか、男の弱い時代なのか(笑

>自分の美学(ロマン)に浸ってる男の人は

二郎が設計に没頭する姿と、宮崎さんの作画に没頭する姿がリンクしますね。クリエイターってこうだよなぁと、唸ってしまいました。最後はホント、泣けます。周りの皆が泣いていて「クリエイター冥利につきるなぁ」と感動しました。堀辰雄の小説とは違う内容ですが、エッセンスとして生かされてます。DVDより劇場向きなのも確かですので、是非観に行って下さい。

う~さん
2013年09月04日 18:47
観てきました。車で20分くらいのシネコンへ行ったのですが、天気雨の中、色々な種類の雲が幾重にも重なる空の下、帰途は夢の続きにいるようでした。
ヨウさん、私は甘く見すぎていました。あんなに言葉無く、夢からなかなか抜け出せないなんて。ジブリの作品は好きで、数十年前の学生時代からほぼ全部観ていますが、あんなに強烈なラブストーリーは初めてです。殆ど、あてられたような感じで、見終わってから、かなりの間雲の上を歩いているようでした。夫はDVDを買う気満々なのですが、もう一度観に行きたいな。
そういえば、平日のレディースデイ。還暦を過ぎてるであろう年配の方、特に、ご夫婦が多かったです。劇場から出る時、「ありゃ、子どもには、ちょっと無理だろう。」という男性の声が聞こえましたが、全てが腑に落ち、包まれてしまった私は、なんて幸せな人生を送ることが出来ているのかと、そんな風に感じました
。宮崎さんに、大切なものを頂いてしまった感じです。彼から贈られてきたことを、これからは私達自身が伝えていくんだ。彼の引退発表は、見出ししか知らないのですが、そんなことを思いました。
って、全くまとまり無いですが、何か、を伝えたくて。乱文失礼いたしました。
2013年09月04日 21:00
>あんなに強烈なラブストーリーは初めてです。

NHKのドキュメンタリーで「メロドラマになった」と宮崎さんがつぶやいてましたね。自分は見終わった後「宮崎さんも、歳をとったなぁ」と思いました。ポニョのような子供の目線の高さ、紅の豚のような中年(大人)の目線の高さをキッチリ描ける人だけど、青年期の恋愛適齢期の人間の目線を、恥ずかしげもなく描けるのは描く側が「第三者」になってる訳で、「年寄りの目」にならないと出来ないと思うんです。同じ目線の高さだと、絶対に照れが出ますから。
親が成人した息子達を見ている感じの描き方だと思いました。

>還暦を過ぎてるであろう年配の方、特に、ご夫婦が多かったです。

こちらもそうでした。戦争体験者が多かったですね。お孫さんと見にきていて終わった後、この頃はこうだったとかしきりにお話していました。でも子供さんは退屈だったのか、上映中は廊下に出たり入ったりでしたね。自分の祖父の兄弟も戦争で亡くなってますが、こういう空気感だったのかなぁと感じました。

>宮崎さんに、大切なものを頂いてしまった感じです。

この映画に限らず全ての作品に言えることだと思いますが、見終えてなにを感じ取るかですね。自分は「クリエイター目指したからには、諦めるな」と宮崎さんに怒られた気がしました(笑
引退を発表されましたが、「名探偵ホームズ」に微力ながら参加できたことが自分にとっての誇りになりました。「人の手で描き出すアニメーションの凄さ」は、これからも続いて行くと思います。

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